プロジェクト・ヘイル・メアリー

★★★☆☆

脚本が大傑作『火星の人』を書いたアンディ・ウィアーなので迷わず観た。で、『火星の人』っぽいなと思った。

主人公のグレースが「ロッキー」とあだ名をつけた異星人が岩の塊に見えて、終盤はかわいく見えてはきたものの、もう少し魅力的にデザインできていたらもっと評価が高かったのにと残念に思う。

『木挽町のあだ討ち』永井紗耶子

★★★☆☆

若い武士が木挽町で起こった仇討のことを芝居小屋の関係者から聴いていく。芝居小屋の裏通りに鮮やかな振袖姿の姫様が佇んでおり、そこに博徒の作兵衛がくる。娘が振袖を脱ぎ捨てると白装束の若者菊之助。父の仇の作兵衛を討ち取り首級を掲げる。仇討の話が終わっても、若武者は語る者の来し方について話すよう促す。地の文章はなく全て関係者の語りである。まず木戸芸者の一八。一八は吉原の女郎の息子で、十二で幇間となる。単に旦那をおだてるだけではうまくいかず、旦那を気持ちよくすることが大事と知ってやっと幇間として生きていくことができる。しかし女郎を人と思わない客に我慢ができず、師匠から幇間を辞めるよう諭される。旦那に連れていかれた森田座で素質を見込まれ木戸芸人となる。二人目は立師(殺陣師)の与三郎。元は御徒士(おかち)の三男坊ゆえ家を継ぐことはできず、婿入り先も見つからない。道場の師範になり御大家の指南番の話がくるが、道場主の甥から闇討ちを受ける。簡単に退けるも、たまたま通りかかった老爺が甥に切り殺される。老爺の世話をしていた娘お三津と縁ができる。甥を庇う道場主と父親に失望した与三郎は武士を捨て、暴漢から役者を救った縁で芝居小屋で働くようになる。お三津と所帯を持ち子にも恵まれた。三人目は衣装係兼女形の芳澤ほたる。30年前、小作人の息子だった六は天明の飢饉の頃母親と江戸に来るが、母親は死に、通りかかった初代ほたるに母親を弔ってもらう。行くところのない六は隠亡(おんぼう)の米吉に養ってもらうが、米吉が死んだときにお寺に行き、10歳になると仕立屋に弟子入りする。下賤の者と蔑まれて仕立屋を出た六は初代ほたると再会する。ほたるは芝居小屋の女形で、六は衣装部屋で働くことになる。初代ほたるが死んで六は二代目ほたるを名乗る。四人目は小道具の久蔵だが語るのは内儀のお与根。木彫り職人として腕の立つ久蔵がお屋敷の仕事を引き受けてる間に一人息子の政吉が死んでしまう。悲しみを紛らすために見に行った芝居小屋で、久蔵は市川團蔵丈から仕事を頼まれる。その日から様子がおかしくなった久蔵を見かねて、理由を訊きにお与根は團蔵と会う。團蔵は、『菅原伝授手習鑑』の『寺子屋』の段の話をする。松王丸が主君の子を守るために自分の子の首を切る話だ。芝居のためにその切首を作るよう久蔵に頼んだと言う。子を亡くした久蔵に子の切首を作れという非情な注文に久蔵は苦しんでいたのだが、一月かけて彫り上げる。團蔵演じる松王丸を観た久蔵は涙を流す。五人目は筋書の篠田金治。旗本の次男野々山正二として生まれ、遊び呆けるものの、むなしさばかり感じて生きている。贔屓にしているのは吉原の花魁葛葉。油問屋のご隠居から身請けされると聞いても悲しくはない。しかし、葛葉はそうでないことを知り畏れる。ある日、吉原で並木五瓶と知り合う。許嫁の妙が幾人からも求婚されていると聞き、急に惜しくなる。居酒屋で呑んでいると妙に求婚している若武者清左衛門がくる。正二は妙と破談にしてもらい、上方に行って五瓶の弟子になる。最後は菊之助の国元で、菊之助の友人の総一郎。総一郎は芝居小屋で五人の関係者に会った若侍である。菊之助は総一郎の妹のお美千との縁組を申し出ている。仇の作兵衛が本当は善き人であることを知る総一郎とお美千が、作兵衛を討って平然としている菊之助を不審に思っているため、菊之助はことの真相を総一郎に打ち明ける。老中の不正を調べていた菊之助の父清左衛門(菊之助の父はあの清左衛門で母は妙である)は菊之助を殺そうとする芝居をし、自らは死ぬことを決意する。犯人とされた作兵衛を菊之助は殺したくない。芝居小屋の皆は真っ直ぐな菊之助に好意を持ち、作兵衛は殺さず、仇討は成就する方法を考える。血糊や切首を準備し、菊之助が作兵衛を討つ芝居をしたのだ。真実を知った総一郎が泣き笑いで菊之助を詰ると、菊之助も泣いていた。

 

久蔵のところでほとんどネタバレする。作兵衛の切首を作って仇討の芝居をするに決まっていると。それがなければ★五つでもいいのだけど、なぜ分かりやすくネタバレしたのか不思議。

『いつまでの理』斜線堂有紀

★★☆☆☆

小説新潮8月号。歩道橋から突き落とされた陽里(ひのり)がSNSにそのことを書き込むとインプレッション狙いなどと誹謗中傷を受ける。陽里以外にも似たような事件に巻き込まれた人がSNSに載せるといずれも炎上する。退院した陽里がパン工場で仕事を再開すると、またしても後ろから押されて右手の爪を剥がすなどの怪我をする。陽里の友人の片上志子(かたがみもとこ)はそのような不穏な事件は以津真天(いつまで)という妖怪が引き起こしていると言う。そしてこの現象には原因があると言い、それは誰からも被害を信じてもらえないまま死んだ人間の無念だという。志子は陽里のSNSと似た「しず」というアカウントを見つけ、ライターである自分が記事にすることで「しず」の無念を鎮め呪いを解くことができると言う。志子が「しず」を探している間にも陽里は突き飛ばされつづけ、身体はボロボロになっていく。志子は「しず」が穂刈静奈(ほかりしずな)ということを突き止め記事にする。怪我のため自分でスマホを操作できない陽里が志子に頼んで調べてもらうと、突き飛ばし事件は続いていることが分かる。「しず」の無念は晴らされても自分の無念が晴らされる番はきていないのだと陽里は知る。陽里は目に見えない何者かに突き飛ばされ続け車道に身を置き、そこに猛スピードでトラックがやってくる。

 

ホラーです。暇つぶしにはなるけれど消費したら終わりという感じがある。別に作者が真面目に創作してないとは思わないし、そもそも小説ってそういうもんだと言えなくもないんだけれど、それだけじゃないよねなんかあるよねと思わせる作品を読みたい。

『BABEL』石川優吾

★★★★★

第1巻をBOOK・OFFで立ち読みする。恥ずかしながら作品も作者もまったく知らなかったが、スゴイ作品があったものだと驚いた。ただ、まだ第1巻しか読んでないので、最後まで読んだら評価が変わる可能性はある。行きつけのBOOK・OFFには第1巻しかなかったので、どうしたものか。

子どもの頃NHKの人形劇で南総里見八犬伝をワクワクして観てたことを思い出す。

世にも奇妙な物語 '26夏の特別編

『マザーズオークション★★★☆☆

無職の男26歳は、自分や実家のこざこざしたモノをネットオークションに出品してなんとか暮らしている。真面目に働こうとしないので母親とはすぐにケンカになる。ある日、母親が1円でネットオークションに出品されていて、2円で入札すると、だんだん入札額が上がっていく。負けないように少しずつ入札額を上げていくと3万円まで上がる。友人から連絡がきて、3万円で入札している人物が会いたがっていると言う。会ってみると小学生の男の子で、男がうちの母親は3万円の価値はないと言うとじゃあ僕がもらいますと言う。男が母親のパート先のスーパーを訪れると、店長は母親の話をしてくれた。いつも息子の話ばかりしているという。入札期限の5日後まで男はバイトをしてお金を貯め、入札期限に115,246,円でなんとか落札する。男はこれを契機に真面目に就職活動に励むが、男の友人、小学生の男の子、店長、男の父親などが喫茶店に集まっている。オークションで入札していた彼らはそのためのアカウントを順番に削除して、男の母親に電話をかけると、母親はみんなに感謝し、落札額は115,246(いい子にしろ)だと笑う。

プー太郎の息子を更生させるために母親らが一計を講じたというオチは安っぽいが、母親に憎まれ口を叩いてばかりの息子が母親を他人に取られないように一生懸命な姿はグッときた。

 

『遺体は一体…』★★☆☆☆

殺人現場に桜庭刑事がくる。そこには後輩の刑事と新米刑事がいて、2階の寝室のベッドに男女の遺体がある。庭で凶器を見つけた桜庭が寝室に戻ると女の遺体がなくなっている。後輩刑事と新米刑事を問い詰めるが、二人は何のことですかと不振な顔をする。凶器を見つけた場所に戻れば凶器もなくなっていて、寝室に戻れば男の遺体もない。二人の刑事に詰め寄れば、後輩刑事が説明を始める。桜庭は自分が担当した殺人事件の捜査が進まない中で精神に異常をきたし、退職して今は施設にいると言う。なんとか納得した桜庭をタクシーに乗せた後輩刑事が部屋に戻ると遺体があった。上層部の指示で隠蔽工作をしたのだった。後輩刑事が新米刑事の口封じのため拳銃を向けたとき、桜庭が再び現れる。地下収納にあったウォーターサーバーがキッチンカウンターに置かれていたことから、二人の刑事が地下収納に遺体を隠したのに気づいたのだ。殺人事件の解決と警察の隠蔽工作のニュースが流れるテレビを施設で見ていた桜庭は、表彰くらいしてもらってもいいんじゃないかと呟くが、施設職員は桜庭がまた妄想していると呆れる。桜庭に電話がかかってくる。また厄介な事件が起こった、桜庭動けるか?と。

事件を自分が解決したと桜庭が妄想してるのか、周りはそう思っているが本当に桜庭が秘密裏に解決しているのか、どっちか分からないのが難点。

 

『実家じまい』★★☆☆☆

紗耶は仕事中母からの電話に出なかった。母はくも膜下出血で瀕死のところ団地の友人に発見されたが亡くなった。紗耶は子供の頃から母親に束縛され、高校生のときにできたボーイフレンドも母親から拒絶された。紗耶は海外留学の夢も諦めた。母が住んでいた団地の実家じまいを始めた。会社の同僚二人が手伝い、家財道具や衣料品をネットオークションに出品すると全部売れて部屋は片付いた。ところが翌日紗耶が部屋に行くと全て元どおりになっている。半狂乱になった紗耶が部屋の中をめちゃめちゃにすると、数人の老人の写真と人骨が見つかった。ネットで調べると同じ団地で孤独死した老人たちだと分かる。紗耶が団地の住人たちに(それは全て老人なのだが)尋ねて回ると、一人の老女が写真の中の一枚は自分の夫だと告げる。数年前、夫が事業が失敗して自分に暴力を振るうことを紗耶の母親に話すと、紗耶の母親は自分の部屋の鍵を渡し、いつでも逃げてきていいと諭した。そしてその老女から老女の部屋の鍵をもらった。その後、老女が自宅で暴力を振るわれているところに紗耶の母親が助けに入り、老女の夫は階段から転落死したことになった。団地で老人たちに囲まれた紗耶は老人たちがオークションに出品したバッグや衣類を身につけていることに気づく。老人たちは紗耶の母親の部屋に入り、母親の写真を拝んでいる。紗耶の母親は団地に独居する老人たちの部屋の鍵を持ち、老人たちを安楽死させていたのだ。人生の最後に安らかに「しまい」をしてくれる紗耶の母親は老人らにとって教祖であった。その教祖の部屋をしまおうとする紗耶に詰め寄る老人たちから逃れるように紗耶は押入れに入ると、老人たちは押入れを封鎖して紗耶を閉じ込める。そこに母親の声がして、紗耶を解放するよう指示すると、老人たちは部屋を出ていく。紗耶の会社で無断欠勤が一週間続く紗耶が心配されているころ、紗耶の母親の部屋の押入れには紗耶と母親が入っており、逃げ出そうとする紗耶を母親は許さなかった。

 

ホラーである。夜見たら怖かっただろうと思う(昼間に録画を見た)。

 

『おじさんになりたい』★★★☆☆

縫川家の小春ちゃんは小学二年の女の子。妹の小夏ちゃんは幼稚園生。小春ちゃんの将来の夢はおじさんになること。ゴミ捨て場で拾った「おじさん」を持っている。「おじさん」の背中のファスナーを開けて中に入るとおじさんにしか見えない。背中のファスナーはいつも小夏ちゃんに閉めてもらう。小春ちゃんのお父さんは怒りっぽくてお母さんを殴ることもある。ある夜、お母さんが書いた履歴書を見つけたお父さんは、家のことをちゃんとやれと叱りつける。もしものことがあったとき子どもたちを育てられるか不安でとお母さんが応じると、もしものことって何だと逆上して殴る。次の日、小春ちゃんは「おじさん」になり、小春ちゃんのクラスの副担と偽ってお父さんを待ち伏せする。「おじさん」がお父さんに離婚を勧めると、家庭のことを学校に告げ口したと思ったお父さんは家に帰ってお母さんを問い詰める。「おじさん」の背中のファスナーが噛んでしまったので、小春ちゃんは「おじさん」のままお父さんを突き飛ばしてお母さんを助ける。「おじさん」がお母さんを抱擁すると、お母さんは「おじさん」に怯える。お父さんは包丁を持って「おじさん」を家から追い出す。「おじさん」は公園の掃除員にファスナーを壊して開けてもらい、事情を話すと清掃員は小春ちゃんが小春ちゃんとしてきちんとお父さんに話すのがいいと言う。頷いた小春ちゃんは壊れたファスナーのフックをポケットに入れる。夜、小春ちゃんが家に帰るとお父さんとお母さんは小春ちゃんの無事を泣いて喜ぶ。小春ちゃんは久しぶりにお父さんと二人でベッドで寝る。背中を向けたお父さんに小春ちゃんが話しかける。なぜお父さんはお母さんを怒るの。お父さんは自分が仕事で家にいないからお母さんに頑張って欲しかった、でもこれからはなるべく怒らないようにすると約束する。「じゃ、やめないんだ」と呟きながら小春ちゃんはお父さんの背中にファスナーのフックを差し込む。翌朝、子ども部屋に「お父さん」がいて、小夏ちゃんに背中のファスナーを閉めるよう頼む。「お父さん」は台所に行き朝ごはんを作っているお母さんを後ろから抱きしめる。お母さんは突然のことに驚きながらも嬉しさを隠せない。小夏ちゃんがダイニングに降りてきて親子三人の朝食が穏やかに始まる。小春ちゃんがいつも座っていた場所は空いたままだ。

 

ベッドで小春ちゃんがきちんとお父さんにお話をしてお父さんが反省し優しいおとうさんになりましたメデタシメデタシかと思ったら、最後にひとひねりあってあざやか、なんだけれども、「お父さん」に入った小春ちゃんが小夏ちゃんにファスナーを閉めるよう頼むとき、ファスナーを閉めることを渋る小夏ちゃんを実際のお父さんみたいに怒って命じたのはなぜなんだろう。「お父さん」になった小春ちゃんもお父さんみたいに怒りっぽくなるかと思えばそうじゃなかった。そして、家族で和やかに朝食を摂るとき小春ちゃんが不在なのを誰も不審に思わなかったこと。小春ちゃんは「お父さん」の中にいるから自分がいないことは分かっている。小夏ちゃんは「お父さん」のファスナーを閉めたから「お父さん」の中に小春ちゃんがいることは知っている。つまり問題はお母さん。お母さんはなぜ小春ちゃんがいないのを不審に思わないのか、それが分からない。「お父さん」の中に小春ちゃんがいることを知ってるってことか。そこ以外は全体的にうまくまとまっているし、「おじさん」や「お父さん」の背中から入りこむアイデアがハマっていて楽しい。

『遥かな町へ』谷口ジロー

★★☆☆☆

中原博史は京都への出張の際、三年ぶりに実家のあった倉吉に寄る。母親の眠る墓の前で気を失い、目が覚めると昭和38年、14歳の頃に戻っていた。仕事で英語を使っていたせいで中学の英語の成績は抜群で、当時憧れていた長瀬智子から好意を寄せられ、一緒に映画に行くなど、現実の家族である妻や子らを忘れてしまいそうになる。博史は中2の夏に父親が失踪することを知っている。父親に女ができたのかと疑い跡をつけると鳥取の病院にいる大沢民子に出会う。余命が長くない民子を父はときどき見舞っていたのだ。民子は父与志雄の幼馴染みで、身寄りのない民子が寂しくて手紙を出したということだった。そして博史が長瀬と海水浴に行った日、民子は亡くなる。父親が失踪する日、博史は駅で父を待つ。今まで成り行きで生きてきた人生をやり直したいという父を、新しい14歳の人生をやり直している自覚のある博史は止めることができない。母親は父親のことを長い間がまんしてくれたと理解する。やり直しの人生は現実の人生から逸脱しないことに虚しさを覚える博史は悪友の島田の家に行くが不在で、島田の姉の店で酒を飲む。酔っ払った博史は母親の墓の前で睡魔に襲われ、目が覚めると現実世界に戻っていた。乗り継ぎの駅で肩のぶつかった老人を見れば、それは年取った自分の父親だった。夜遅く家に着いた博史を妻子が待っていた。博史に届いていた小包を開けると、直木賞候補の堀江大三郎から謹呈本『遥かな町へ』だった。堀江はあの悪友島田だった。

 

よくあるタイムスリップものではあるけれど、丁寧な絵と登場人物の心理描写で飽きさせない。人生をやり直せたらという父とそれに共感する子と母の感情がちょっと切ない。