嫉妬/事件

★★☆☆☆

文庫カバーの一番目立つところに大きく「ノーベル文学賞受賞」とある。作品のタイトルより大きく。帯ではなくカバーに。

アニー・エルノーという作家を知らないので、ノーベル文学賞受賞者と知らされなければ、もちろんこの本を読まなかったはずである。そういう意味では(営業的には)いい表紙ではあるが、ふつうここまで露骨なことはやらない。勇気があると言ってよい。

おまけに帯には「オートフィクションの旗手」とある。なにか小説の新しいカタチなのかと思わせる。後で「訳者あとがき」を読んだら、「フィクションではないし、いわゆるノンフィクションでもない」とある。じゃあなんだと思ったら、自伝的「文章」「テクスト」とある。いやそれは、「自伝的小説」でいいじゃないですか。もったいぶって「オートフィクション」なんて言い換える必要はまったくない。

と、そんなこんなの作品自体とは関係ないことを書いてしまったが、作品自体はまあまあ。

最初は、時折でてくる長いセンテンスが分かりづらかった。日本語は最後に動詞が来るので、長い文章は結局なにが言いたいのかは最後にしか分からない。それはまだいいとして、一つのセンテンスを読み終わっても意味が分からないときに、作者の表現が元々分かりづらいのか、それとも訳者の翻訳がヘタなのか、どっちなのかが分からない。翻訳もののさだめではある。だから、翻訳ものは(特にエンタメ系でなく芸術系の場合は)嫌いだ。