自転しながら公転する

★★★⭐⭐

文庫の解説にもあったように、この小説にプロローグとエピローグが必要だったのかという問題。作者(山本文緒)の考えを想像すれば、それがなくて本編だけだったらただの恋愛小説に見えてしまうのが嫌だったのかもしれない。もちろん山本文緒の小説は、これに限らずただの恋愛小説である(たぶん)。本当は、「ただの」というのは言いすぎで、一見ただの恋愛小説のようでそうではない。主人公の負の感情がしばしば描かれる。怒りや不安や狡さが絶妙に描かれることにより、読む者に共感を与えたり、受け入れたくない真理を突きつける。そこが山本文緒作品の醍醐味である。

本作では、プロローグがない本編だけだったら、都が貫一と結婚するまでの紆余曲折が描かれたただの恋愛小説になってしまう。二人が別れそうになっても、最後は一緒になるんでしょと読者はたかをくくってしまう。そこをプロローグがあることで読者をミスリードし、本編の最後まで読者の緊張感を持続させることができる。と、山本文緒が考えた、かどうかは分からないけどそういう気がする。そのお陰で最後まで結末がよめない緊張感は持てたものの、わざとらしさみたいものがちょっと鼻についたのも事実。

結論。プロローグ(とエピローグ)は、あったら鼻につくが、なければ退屈。

最後に。山本文緒さんのご冥福をお祈りいたします。