一人称単数

★★★⭐⭐

村上春樹の短編集。文庫で出たので買った。30年前は新刊が出るのが待ち遠しかったというのに、今は新刊を買わず、文庫が出るまで待っている。

いまになって思えば、村上春樹の長編は、ギリギリ「ねじまき鳥クロニクル」まで読めば、あとは読まなくたっていい作品だった。そう、「1Q84」だって読まなければならない作品ではなかった。いまになって思えばだけど。

ちなみに、「羊をめぐる冒険」と「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」は大傑作。初めて読んだ村上作品が「羊」だったけれど、なんというか自分の中の小説観がひっくり返るほどの衝撃でした。小説ってこういうものだという認識は、たとえば森鴎外だったり芥川龍之介だったり太宰治だったり、そこらへんにあったのだけど、「羊」を読んだとき、え~、こんな小説があっても許されるんだ、と驚いたものです。それから、村上作品は出ればすぐ買うという感じでしたが、「羊」と「世界」を越える作品は出なかった。

で、今回の短編集ですが、村上春樹の短編はまだまだ面白いという印象です。長編が結構前から面白くなくなったのに対し、短編はまだまだイケます。収録された一つひとつの作品について感想を書くのが面倒になったのでこれで終わりますが、またいつか面白い長編を書いてくれたらうれしいなと思います。

WBC優勝

ちゃんと観れたのは準決勝メキシコ戦だけでしたが、この試合の素晴らしさといったらもういつ以来のことか思い出せないくらいいい試合だった。それまで不振だった村上が逆転サヨナラのヒットを打つなんて、泣きそうになりました。

一次ラウンドから一度も出場してないのは宇田川くんだけのような気がします。彼が投げる姿を見たかったですが、栗山監督もリスクを犯せなかったのしょう。もちろん監督も彼の可能性を信じても召集はしたのでしょうけれど。3年後に期待します。がんばれ宇田川。

あと、忘れてはならないのはダルビッシュだ。試合の中では輝けなかったが、食事会を設けたり、自分の持ち玉を惜しげもなくほかのピッチャーに伝授したり、チーム作りに一番貢献したのは彼だろう。優勝したとき、栗山監督のあとにみんなから胴上げされたのは、彼が功労者であることをみんなが分かっていたからだ。

 

超人間要塞ヒロシ戦記

★★★★⭐

いやもう面白かった。

バカバカしい話をマジメにドラマに作り上げたといった感じです。バカな話だからといって手を抜いて作ってたら、こんな面白いドラマはできません。

傑作と言っていいと思います。

大江健三郎死去

3日。88歳だった。

学生の頃大好きだった作家。特に初期(どこまでが初期なのか分からないけど)の作品が好きで、「死者の奢り」と「セブンティーン」はすばらしく面白かった。

先日、なんとなく、「万延元年のフットボール」を読み返したくなって書棚を漁ったが見つからなかった。仕方ないのでTSUTAYAで買おうと思って出かけたが、大江健三郎の本は一冊も置いてなかった。三島や芥川はあるのに、大江はない。ちなみに森鴎外もなかった気がする。大江や鴎外の本は読まれない(売れない)のかと思うと少し寂しかった。

ご冥福をお祈りする。

 

黒田東彦日銀総裁

この人と安倍元総理のせいで、日本は莫大な借金を背負うことになった。1000兆円。

景気や株価を支えただの失業者が減っただの、二人とも偉そうに言ってきたが、国債を大量に発行して、それを日銀が買い上げて、そうやって作ったお金をばらまいただけのこと。お金を配れば景気がよくなったように見えるだけのこと。家庭に例えれば、サラ金から借金してきたお金で豪遊してるだけのこと。

日本という国の借金はいずれ日本国民の借金になる。

ふりさけ見れば

★★★★★

安部龍太郎日経新聞連載小説が567回をもって完結した。

日本の天皇や中国の皇帝のほか、歴史に疎い私でも知っている阿倍仲麻呂吉備真備楊貴妃、王維などが登場する。どこまでが史実に忠実でどこからがフィクションなのかは分からないが、たいへんな労作だというのは分かる。

政治小説でありサスペンスやラブロマンスの要素もありの、これは傑作と言ってよい。

君のクイズ

★★★★⭐

出だしがいい。クイズ番組で問題文が読まれる前に回答ボタンを押すという、ゼロ秒押しで王者が決まる。この小説は、敗者となった主人公が、ゼロ秒押しがヤラセだったのかそうでなかったのかを推理する話である。

読者は、ゼロ秒押しにはなんらかの合理的な理由があるだろうと期待し、早くその場面にたどり着きたい。その欲求が読み進めるための強烈な推進力になるのだが、反面、結末にたどり着くまでの行程がまどろっこしくもある。が、読み進めるうちに、その行程自体も面白くなってくる。

結末は衝撃的ということもないが、小説的には納得のいく終り方だった。途中の一見まどろっこしい行程があってこその着地点である。アイディアが優れた小説だが、構成や文章もきっちり計算されてるなという印象。楽しめました。

 

ピエタとトランジ

★⭐⭐⭐⭐

殺人事件を誘発する体質の探偵が主人公という、その設定のあまりにもバカらしさを芥川賞作家がどういう小説にしたのかと思って読んでみたが、正直よく分からない作品だった。ミステリーっぽくはあるが、謎解きに驚きはなく、単に頭がいいから犯人が分かってしまうだけで、おそらく作者はミステリーを書いているつもりはないのだろう。

藤野可織という名前を実は知らなかったのだが、芥川賞を獲ったものの作品が売れずに、仕方なくエンタメ作品を書いてみました、ということなんじゃないかと邪推してしまう。